曽野綾子 都会の幸福
以下は本書抜粋の文章
高層建築や高速道路が都会の空にくっきりと浮かんでいる姿を見るときに私は反射的に生の胎動を感じる。私はその道を都心に向かって車を走らせていた。私の背後には、茜色の夕映えがまだ残っており私の前方には都会の灯が光始めていた。何という生き生きした輝きだろうと私は思った。自然と人工の灯がお互いに少しも侵しあうことなく伯仲しているみごとな時刻であった。
美の観念には明らかに2つのものがある自然の美と、人工の美である。この二つのものを、同時に同じ
土俵の上に並べて論じることはできない。都会の美は人口の美の極限をめざす。都会の一隅に、たとえ自然の木立があろうとも、それはデザインをもとに植えられた木立なのだから。そこにある自然はすべて計算された自然である。そして現代の人々は、計算され管理された自然が実は好きなのだし、ほんとうの自然は、人間にとって生きにくいところであり・・・人間によって充分に管理され、創造された都市は、人間のあらゆる生活の様式の上に、人間の賢さと意志を表そうとする。これはまことに知的で魅力的な操作である。・・・・・東京の地価が高いのは当然である。なぜなら東京の地下には魂の自由代が含まれているから。個人を温かく埋没させる。勇者にも卑怯者にも優しく・・・多くの人が東京を捨てるが、反対に多くの人が東京に来ると、もう決して故郷には帰らない。それほどに東京は一部の人にとっては、住みいい土地なのである。
私的感想
なんて言い得て妙な。20230708