川端康成 古都
一卵性双生児である若く美しい娘二人が幼いころ理由あって別れ、それぞれの環境で成長し、あるとき再会するというストーリー。その二人を取り巻く人間模様と人物形成に影響を及ぼした精神的な環境を描き、流れるような美しい文体で展開される作品であり読後、なんと豊かなものを味わったのだろうという気分にさせてくれる素晴らしい嗜好品である。かつてこの古都もノーベル賞候補にあがったというが、雪国より個人的に好きな一冊である。この作品はストーリーや登場人物より川端が愛した自分の中にある京都の風土を何よりも描きたかったのではないかと思う。話の筋やキャラクターはこの作品においては古都の風土を引き立てる点景のように私には感じられるのだ。
私自身、大学時代を京都で過ごしたがその当時は好きな音楽を聴いて毎日バイトばかりして過ごしたことくらいしか街の思い出がないことを思うと残念でならない。そして時がたち社会人になってから京都市中京区という主人公の御棚がある同じエリアでKYOTOオリジナルデニム生地を売りにしたジーンズショップの設計に携わったこともあったが、そのSHOPは潰れてしまい今はもう存在しない。なぜか私の人生の中であっさりと過ぎ去ってしまった京都。今改めて川端康成という作家によって京都という都市を彼の想像力の世界のなかで体験した。芸術家とは現実の人や物のエッセンスを脳内に取り込み、イメージの世界に遊ぶものだが、その驚嘆すべき才能によって生み出された”古都“は現実京都とは別の川端が生んだ異次元空間に存在するシックな場所として時間を超越し読者の心のなかに存在し続けている。20230416