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英国に就いて 吉田健一

 

東京の昔、金沢、わが人生処方,汽車旅の酒などお気に入りのものは多くあるが共通して好きなところは、食事のことに対する描写が何とも言えず豊潤であるところである。魅力的な食のシーンを描く作家は他にも多くいるが、吉田健一の文章全体に感じる普遍的な何かは、一度はまってしまうと好きなメニューのようにちょくちょく読みたくなる。この本の章にある”英国の四季”に解説される冬の過ごし方(主に食事)についての描写は言葉遣いから何から何までとても味わい深い。上記にあげた"わが人生処方”なども全体を通してのイメージがおおらかである一方でそこに人生の真理のようなものをさりげなくちりばめている。吉田健一は元々アカデミックな人なのだが、彼の書く味のある散文はアカデミックから離れた誰もが素直に認めることができる真の教養、すなわち豊かさを感じることができる素晴らしい文章であり、何年たっても読み返すたびに良い音楽や美味しい食事、魅力的な絵画のような深い喜びを与えてくれる大好きな作家である。     20220910