麦秋 小津安二郎
気にいったものは長く何度も見続ける性格で、そういった意味では小津安二郎の作品がもっともそうかもしれない。最初から最後まで淡々としたシーンの中に描かれる、温かみや登場人物の所作や言葉の美しさというものは日本人がかつてこのような品性を持って日常生活を送っていたことについての小津の深い愛情と美学からくるものであることは言うに及ばないが、何度みても飽きないというのはそれがやはり心地よいものであり、人生の質をあげることとはどういうことかという1つの解答が描かれているような気がしている。この押しつけがましさや気どりとは無縁な、いいもの感が多くの人に長く愛される所以であり、ジャンルや人を問わずこのような良さを味わえるような何かを見つけたいといつも感じているのだが、なかなかそういうものがないからこそ、これらの作品の存在価値が際立つというものであり、いいものを経験したあとの豊かな気分が味わえるのだ。 20190905
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