太田大八:かさ
この絵本に文章はない。女の子がある雨の日に かさを持っていない父親を 1人 駅まで迎えに行くという道程を描いているだけである。ただそれだけなのに 私はこの作品に感動を受けた。何に対してそう感じたのか。まず、この絵本の背景世界は私の幼少時代に住んでいた街の風景に似ている。そんな個人的にタイムスリップするような世界観も好きなのだが、背景世界は1970年代に存在したようなどこかの街であり、ストーリーに劇的なものは何も無い。しかし、この絵本を読んだ人が気づくであろうことは、この女の子の行動を静かに見つめる誰かがいることである。それは読者自身である以上の誰かである。そしてその誰かは地球のある場所のある女の子の行動を暖かく静かに見つめている。無論作者の視点でもある。しかしそれ以上に、読者の目を通して感じるその存在は、特定することはできない存在であって、その存在と私達が共有するものが'愛”のまなざしであることが、我々を感動させるのである。人間はどんな視点でも世界を見ることができる。実際そのような多様な視点から発生する不安な現象で世界はあふれている。しかし 私達の住む世界が このような"愛"の視点に包まれた そんな何かが見守る世界であることを私は信じている。
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